はじめに
高校の数学の授業中、私はたいてい松本清張か、カムイ伝を読んでいた。
教師に「秋山、やってみろ」と指さされても、気づくのに2秒かかった。
呆れた教師が「わからないところがあるのは仕方がない。しかしそんな時は諦めず、すぐに質問しなけりゃだめだぞ」と私を咎めた。
そこで私は愚かにも「黒板の10g(対数のlog)って何ですか?」と咄嗟に聞いてしまった。
教室は爆笑に包まれ、私には「10g男」という不名誉なあだ名がついた。
現代国語の時間は、エロ本を読んでいた。
「秋山、〇ページを読んでみろ」と不意に当てられ、「ひとまず」という出だしを焦って
「ひとづま」と読んでしまった。
教室は一瞬にして爆笑の嵐と化した。
「10g男」のほとぼとりも冷めないうちに、「人妻男」のあだ名が加わり、危うく登校拒否になりかけた。
こんな私がなんとか数学を飯のタネにして人生を送れているのは、神様が私にあるひとつの特技を
与えてくださったからである。
それはニッチもサッチもいかなくなった状況でしか出ない火事場の馬鹿力にも似た力である。
~
こんなふうに学生時代から私に試練を与え続けた数学と半世紀も付き合ってきたのはなぜか?
それは数学の地に一歩足を踏み入れると、そこには千差万別の真実の花々が凛と咲く、ロマン溢れた美しく、とても不思議な世界が広がっているからだ。
PHPサイエンスワールド
「なぜだろう?」「どうしてだろう?」
科学する心は、子供が持つような素朴な疑問から始まります。
それはときには発見する喜びであり、ドキドキするような感動であり、やがて自然と他者を慈しむ
心へとつながっていくのです。
人の持つ類まれな好奇心の持続こそが、生きる糧となり社会の本質を見抜く眼となることでしょう。
そうした内なる「私」の好奇心を取り戻し、大切に育んでいきたい。
PHPサイエンス・ワールド新書は、「私から始まる科学の世界へ」をコンセプトに、身近な「なぜ」「なに」を大事にし、魅惑的なサイエンスの知の世界への旅立ちをお手伝いするシリーズです。
「文系」「理系」という学問の壁を飛び越え、あくなき好奇心と探求心で、いざ冒険の船出へ。
2009年9月 PHP 研究所
参考文献:「数学に恋したくなる話」 秋山 仁 2010年
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